第63話    2004年4月1日
 
             やさしさ            

  自分の目の高さを大地の高さと等しくしてみましょう、そうすれば、
  やさしさの心でものを見ることができます。すべての生きとし生ける
  ものと、心が通じ合えるから、命の輝きを共感することができる。



盲導犬クイールの一生

 
「盲導犬クイールの一生」というモノクロームの写真に文が添えられた本が出版されました、70万部を突破したそうです。盲導犬クイールの物語は昨年6月にもNHKテレビでドラマ化され視聴者から大きな反響がありました。そして映画になり、3月13日より全国で好評上映されています。

 この物語のあらすじは、東京のある家で、ラブラドール・レトリーバーの子犬が5匹誕生しました、飼い主は子犬を盲導犬にしたいと願っていました。願いがかない、そのうちの一匹が盲導犬としてボランティアで子犬を育てるパピーウォーカーの元へ運ばれて行きました。ここで「クイール」という新しい名前をもらい1歳の誕生日まで愛情いっぱいにかわいがられて育てられました。そして1歳になると盲導犬訓練センターへ移され、訓練士により盲導犬として育てられ、訓練されていきます。

 盲導犬として訓練されたクイールは渡辺満さんのパートナーとなるべく、トレーニングを重ねて、呼吸がぴったりと合うようになって渡辺さんの家庭で盲導犬として生きることになります。やがて悲しい別れがおとずれます、渡辺さんは病死してしまいます。

 その後、クイールは盲導犬訓練センターへ帰され、訓練犬普及のために社会での理解を深めてもらう活動に生きることになり数年後、老いたクイールは、育ての親であるパピーウォーカーに看取られ一生を終えるという物語です。

 
やさしさとはなにか

 この物語は犬のやさしさ、人間のやさしさとはなにかを人々に問いかけているようです。盲導犬になれる犬は生まれつきその性格が限られてくるそうで、荒々しく、猛々しい闘争的な性格をもって生まれてきた犬は盲導犬には不向きで、穏やかで従順な性格をもって生まれてきた犬が適しているそうです。そんな性格の犬のみが訓練を重ねて盲導犬になっていきます。
 人間も0歳児には親の愛情がいっぱいそそがれなければいけないのと同様に、ボランティアで子犬を育てるパピーウォーカーは、子犬を愛情いっぱいに育てます。
 盲導犬の訓練は、しかって、怒鳴って、というよりも、ほめてやさしく接することを基本にしているようです。穏やかで従順な性格をもって生まれてきた犬だから、訓練士のやさしさの気持ちがつたわり盲導犬になっていくようです。人間のやさしさが犬のやさしさを育む、犬のやさしさが、目の不自由な人の心をも読みとるようになるのでしょうか。

 目の不自由な人の目となりて介助するのが盲導犬です、人間の生活する場に生まれて、一生を人間とともに生きる、犬にとっても人にとっても、これは幸せであるか否か、この映画の崔洋一監督は、カメラのレンズの高さを犬の目の高さで描こうとされたのでしょうか。

 犬と人間の関わり合う物語ですが、人間であれ犬であれ、互いの生命を尊び、やさしさの心を通い合せることができる、これはすばらしいことです、見る人を感動させる物語です。


一つの命は他の生命によって支えられている

 昨今、牛海綿状脳症(BSE)や鳥インフルエンザ、鯉ヘルペス、遺伝子組み換え、残留農薬などにおいて、食べ物の安全が問われることが多くなりました、けれども市場では商品の廉価安定供給が求められる。確かに大量飼育養鶏によって鶏卵は低料金を保ち、物価の優等生とも呼ばれています。

 国際競争の時代においては、食品の廉価安定供給と、安全性、品質の向上をめざして関係業界の人々のたゆまぬ努力が続けられています。したがって養鶏飼育業者は鳥インフルエンザに感染する危険性をはらみながらも、経済効率を高める量産飼育への方向は止まることがないでしょう。

 ニワトリは人間の食料にしかすぎないから、鳥インフルエンザの感染拡大を防ぐという理由で何万羽の鶏が殺戮されました。けれどもどんな生き物でもその命は他の生命によって支えられているという事実があります。牛、豚、鶏などは、いずれも人間の命を支える生き物であるとともに、大規模農業で収穫された米の一粒でも、大量飼育養鶏で飼われた鶏の一羽でも輝ける命であります。

 一つの命は他の生命によって支えられているのですから、米や野菜などの農作物にしても、牛、豚、鶏、魚にしてもそれらの命の尊厳を見つめる目を持つことも忘れてはならないでしょう。

自分の目の高さを大地の高さと等しくしてみましょう

 
桜の開花を待ち望む日本人の心には特別の思いがある、満開に咲く桜には妖艶な美しさがあります。桜の代表格ともいえる、ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラの雑種として江戸時代の末期、江戸の染井村の植木屋さんによって世に出た品種であることはあまり知られていません、それぞれの種の特徴が合わさった美しい桜です。

 桜にしても 農作物にしても牛、豚、鶏、魚においても同様ですが、人間の側からのご都合主義にもとずいて、人間の手が加えられたものがあまりにも多いようです。
 一つの命は他の生命によって支えられている、人間も大地に生きる生き物であり、米や野菜などの農作物、牛、豚、鶏、魚などの命によって支えられているから、命の尊厳を見つめる目を持たなければいけない。

 「盲導犬クイールの一生」この物語は犬のやさしさ、人間のやさしさとはなにかを人々に問いかけています。犬の目の高さと等しくしたときはじめてやさしさの心が通い合うのです。

 自分の目の高さを大地の高さと等しくしてみましょう、そうすれば、やさしさの心でものを見ることができます。やさしさの心によって生きとし生けるものと、心が通じ合えるから命の輝きを共感することができる。幸せとは、すべての生きとし生けるものとともに、生きていることの喜びに感動できることでしょう、
キーワードは「見る目の高さ」、「やさしさの心」です。

 「盲導犬クイールの一生」の物語に登場する渡辺満さんは実在の人で、住んでおられた町が亀岡市です、物語の盲導犬訓練センターも亀岡市にあることから、この映画のほとんどの場面が亀岡市内各所で撮影されました、そして亀岡市民も多数この映画に出演しておられます。
                

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