第96話  2007年1月1日
          一日一笑

      この世はつねに 無常(うつりかわり)に支配さる 
      何の笑い 何の歓喜
(よろこび)
      おん身らはいま 暗黒
(やみ)に覆われたり 
      なにゆえに 燈明
(ともしび)を求めざる
                               [法句経146]


. 笑いは運動

 京都大学霊長類研究所の山極寿一さんによると、ゴリラは笑うそうです、人間以外に笑う動物はゴリラぐらいだそうですが、グコグコグコと笑い声もたてる。ゴリラが笑うのは遊んでいる時で、おとなのゴリラに比べると子供のゴリラがよく笑うそうです。

 人間は生後すぐに笑いの表情を見せます、笑うのは人間の特徴でしょうか。人に近いサルでさえ、笑いに似た表情をするけれども、それは敵意がないことを示している行動だそうです。
 笑いという顔の表情は、人間だけに与えられた高度な感情の表現方法といえるでしょう。犬でも猫でも動物は笑わないけれど、人間が笑いの表情で話しかけると、それに応じたような動きを見せる、動物にも気持ちが伝わるのでしょう。人間社会では、民族、宗教、言語、習慣などが違っていても、笑いは万国共通語のようです。
 
 笑い過ぎて「腹が痛い!」という経験をしたことがあるはずです。人間は笑う時に、腹筋をはじめとする身体の様々な部分の筋肉を使うと言われています。東京大学教養学部・身体運動科学研究室の川上泰雄さんによると、 笑う時に一番活発に使われる筋肉は腹筋だそうです。背中の筋肉、腰の筋肉、胸の筋肉、なども笑いに関係しているそうです。
 笑いが腹筋運動だとすれば、当然カロリーも消費するはずです。笑う3分半で消費されるカロリーは 約11kcalだそうです、消費カロリーの比較では、早足で歩く 約17kcalですから、まさに笑うとは運動そのものです。  

 大阪大学医学部講師・総合人間科学研究所所長の角辻 豊さんによると、笑いとは、人とのコミニュケーションの場において生まれる現象だと、しかし、高度情報化社会の現代では、他人との直接的な触れ合いが少なくなってきていて、笑うことも減ってきていると言う。
 怒ったり、悩んでばかりいると、ストレスなどから身体の機能に緊張をきたし、糖尿病や胃潰瘍になってしまう可能性があるといいます、笑いは、私たちの身体にどのように影響するのでしょうか。

笑いで健康を手に入れる

 筑波大学名誉教授の村上和雄さんが 「糖尿病の患者さんは血糖値が上がりすぎて困るのだが、食事の後で、吉本興業のお笑いを楽しむと血糖値の上りが小さいです」と、笑いがいかに大切かを実験的に立証されました。

 また、笑うと身体の免疫力がアップする、笑いで病気を克服できるという、笑いに関する面白い実験結果を出しておられるお医者さんがおられます。劇場でタップリと笑った人たちの血液中の免疫力を調べてみたところ、殆どの人の免疫力が、笑った後上昇していたという。「笑いは、薬にも勝る効果を発揮する」と、岡山県倉敷市の柴田病院の伊丹仁朗先生は言う。
 笑うことで身体の中にどんなことが起こっているのか、1992年に伊丹先生が行った実験は、被験者50名(健康な男女)に「お笑いビデオ」を2時間視聴してもらい、おおいに笑ってもらった。笑う前と後に採血して、血液を始めとする様々な身体の変化を調査したところ、やはり血液中の免疫細胞の働きが高まっていることが判明した、免疫細胞の働きが笑いによって上昇しているそうです。

 「笑うと、交感神経と副交感神経の適度な波が醸し出される。それが健康のために良い」とは、大阪大学医学部講師の角辻 豊先生の言葉です。おかしくて笑って涙が出たことがあるでしょう、この涙は、副交感神経の作用だそうです。つまり、笑いには、自律神経を活性化し、さらに副交感神経優位の状態にする効果がある。笑いによって自律神経の頻繁な切り替えが起こると、身体中の様々な器官に刺激が与えられる。そして、笑いによる脳への刺激が、ナチュラルキラー細胞活性化の重要な役割を担っているそうです。
 
 ナチュラルキラーNK細胞は白血球の一つです、リンパ球で、ガン細胞や細菌に感染した細胞を死滅させるはたらきがあるそうです。常に身体の中に存在し免疫活動を行っている、この細胞が笑いによって強くなる「笑うことで、自然治癒力が強くなる。」ということが証明されたのです。作り笑顔の場合でもNK細胞の働きが活発になるというから驚きです

. 赤ちゃんから笑顔が消えた

 幼稚園に通う子供たちに、母親の似顔絵を描いてもらった。子供はどんな表情をしたお母さんを描くのだろうか?子供たちが描いたお母さんの似顔絵は、なんと、全員が笑顔だったそうです。いつでもお母さんが笑って子供たちに接しているわけではないのですが、子供たちにとって一番印象深いお母さんの表情が、笑っている顔なんです、子供は、本能で親の笑顔を求めているのです。

 15年程前から日本の赤ちゃんにある異変が起きていることに、小児科の先生が気付いた。その異変とは、笑いが少ない、表情に乏しい、あやしている母親から目をそらしたり無視する 、それらを名付けて『サイレント・ベビー Silent Baby』と呼ぶそうです。
 「普通の赤ちゃんは、我々の顔を見て笑ったり泣いたりする。ところがサイレントベビーの赤ちゃんは、ただ天井の蛍光灯とかをジッと見つめるだけで、我々が赤ちゃんに話しかけてもまったく返答をしない。」
 「サイレントベビーは、放っておいても一人で静かに遊んでいる、一見、親の手を煩わせないおとなしい子のように見える。しかし、そのまま放っておくと、『引きこもりっ子』や『不登校』の子供に成長しやすい。」と、岡村産婦人科・院長の岡村博行先生は言う。

 お母さんが笑顔で赤ちゃんに微笑みかけると、一所懸命お母さんを見て笑うようになる。赤ちゃんに対して無表情なお母さんは、赤ちゃんが 、お母さんの様子に戸惑うようになる。赤ちゃんが笑いかけても、お母さんが無表情を押し通すと、ゲップが出てきたり、身体の調子がおかしくなってくるという。 母親が笑いかけないだけで、赤ちゃんはストレス状態になり、自律神経にまで支障をきたすそうです。

 泣いたり笑ったりすることは、もともと遺伝的にプログラムされている能力です。しかし、この能力は周りの大人たち、特に母親との関係の中で大きく変わっていくそうです。喜怒哀楽などの人間の感情を処理する脳の基本的な働きは、生まれてから1才ぐらいまでの間にほぼ作られるという。この時期に母親とのコミニュケーション(微笑み合い)が乏しいと、その基本的な働きが育たなくなってしまうそうです。
 赤ん坊の頃に自分の感情を表現するすべを見失うと、大きくなっても他人と上手くコミニュケーションをとることが苦手になってしまうそうです。つまり、母親とのコミニュケーションが、子供の感情表現を豊かにするのです。

いつも変わらない笑みの人は人生の達人

 世の女性たちにとって気になるのが、笑いと小ジワとの関係でしょうか。顔には、表情をつくる筋肉が20種類以上もあり、使わなければ、徐々に衰え、肌のツヤや張りに悪い影響を及ぼすそうです。毎日少しづつでも使うことで、筋肉は柔軟性を保ち、しなやかないい筋肉になっていくので、美容のためにも大いに笑うといいそうです。
 そして、疲労を回復するために睡眠は大事なことです、しかし、なかなか寝つけないという方には、よく笑うことをお勧めしたい。笑うことは、筋肉を使ってカロリー消費をする運動ですから、よく笑うことで安眠できるそうです。

 人生は泣き笑いです、悲しい時に涙が出ます、またうれしい時にも感激の涙が出ます。そして腹を抱えて、腹の皮がよじれるぐらいに笑う時も、おかしくて涙が出ます。でも悩み事や心配事があると心底笑うことができません、悩み事があっても心配事があっても、いつも変わらない笑みの人は人生の達人です。笑いは生活の潤滑油です、大いに笑い、いつも笑顔をたやさない、気持ち明るく生きることを心がけたいものです。

 赤ん坊の頃に自分の感情を表現するすべを見失うと、大きくなっても他人と上手くコミュニケーションをとることが苦手になってしまうそうです。つまり、母親とのコミュニケーションが、子供の感情表現を豊かなものにするのです。東京芸術大学の心理学博士・高橋道子教授によると、「お母さんが、赤ちゃんに対してだけ無表情なのではなくて、母親になる前から、一般的に人とのコミュニケーションが下手になっている」そういう女性が最近多いと言う。ケータイが話す道具でなくなった時代です、笑顔で愛語することがとても大切です。
 
 「笑う門に福来たる」といいますが、常に笑い声の絶えない家には、ひとりでに幸福がやってくる、辛く困難なことが多くとも、笑いから道は開けるものです。辛く悲しいことが生じた時でも、笑いは希望と勇気を生み出します、笑いは幸せを生み出す力をもっています。
 そして、笑いはまわりを明るくして、他を幸せにする力をもっています、無財の七施の一つである和顔施(わげんせ)……笑いは、したがって、他を幸せにする布施行です、「一日一笑」いつも笑顔で過ごしたいものです。

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