「鐘の音」   和尚の一口話      2000年1月1日
         
       第十二話  喜 び の 心  

   
喜びは人生の花であります、人は喜びに生きるものです 
              
喜びは命そのものです


 喜びにもさまざまあります、物質的な喜び、感覚的な喜び、境遇の喜びなど、そしてこれらの喜びを得ようとすることが、苦しみにつながることもしばしばです。

 雑誌「上方芸能」前編集長の木津川計・立命館大学教授が、ある時こんな話をされました、「母の胎内から生まれ出る時、母も子も、ともに産みの苦しみを味わうところから人生が始まります、だから人生は苦しきことがあたりまえだ」「苦も喜びなり、楽も喜びなりと理解できればよろしいのです」と。

 何が真の喜びと言えるのか、どんなことが生きる力となる喜びであるかがよくわかり、そして喜べる心を養っておくこと、人の幸せを心底から喜ぼうとする心、我が身の不幸災難にも生きる力がわき起こり、雨にも喜び、風にも喜び、暑さ寒さにも喜べる心をいつも持ちあわせていることが大切でしょう。

 21世紀は人類が初めて経験する、高度情報社会・デジタル通信の時代です、デジタル産業革命の始まりとも言われるくらいに、情報が質的量的高速度的に社会の変化をもたらします。

 高度に発達していく情報の混沌の世だからこそ、自己
を見失わないように「真実の喜びに生きるすべ」を体得しておかなければ、情報の渦に巻き込まれてしまう藻屑になりかねません。

 人類は一切のものを人間中心にとらまえようとした20世紀のありようから、人間も天地自然と同じくするあり方に立ち返り、一人一人が生きとし生けるもの天地万物と共に生きることを喜ぶ心を養うことこそが大切でしょう。


 この世に人間として生まれてきたということは、万に一の幸運であります、それは宝くじの特賞が当たるどころの話ではない、受け難し人身を受けて生まれてくることができたことこそ、最高の喜びの始まりであります。二度と生まれてくることがない片道切符の人生を歩むお互いであります。

 片時も無駄にすることなく、生きる限りを尽くして生きる、我執をはなれて、仏(真実の喜びに生きる人)となりて、「今を喜び生きよ」と、お釈迦さまは諭されています。

 大晦日の一夜が明けて、元旦の光に照らされた時、我も喜び人も喜び、そして山も川も、天も地も、なにもかもことごとくが喜び一色の世界であることを、あなたは実感できたでしょうか


 
新しい年を迎えて、喜び得る心構えができておれば、新春の喜びの光明に照らされて、真実美しい人生の花がこの一年咲き続けることでしょう。いつも喜びの心を持ち続けることです、喜びこそ命そのものです、人は喜びに生きるものです、喜びは人生の花です。

 
   いつも只 我古里の花なれば
      色もかわらず 過し春哉    道元禅師
 
        四季それぞれに時を得て、花は咲きまた散っていく
        仏の家に咲く花の心は少しも変わることなく、仏の
        光につつまれて、春を過ごしていく。


             〔西暦2000年/仏紀2566年/慶祝道元禅師ご生誕800年〕 
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