「鐘の音」   和尚の一口話   2000年5月1日
                   悠久に流る、ガンジス河
 
        第十六話
 今・・・・・                
   
     前世や死後の命運を心配するより、
   
現在の、今を、いかにより良く生きるかが大切なことです


 ガンジス河はインドの心のふるさと、悠久の流れは神そのものです。 インドの人々はこの河をガンガーと呼んでいます。聖地ベナレスには多くのヒンズー教徒が集まり、太陽が昇る時、ガンジス河に身を浄め、また亡者の遺体を火葬し遺骨を流し水供養をしています。

 インドの人々にとって、死は生の始まりだとする、すなはち死をもって終わりとなるのではなく、その肉体が滅びても霊魂は生前の善悪の行為に応じて、しかるべき死後の世界に生まれ変わる、人は永遠に生死を繰り返す、ガンジス河のように悠久に流れ続ける、輪廻転生すると考えられています。

 したがってインドの人々は、後生安楽、天上に生まれ変わることを願うからこそ、現世の生き方として、善行をなし、功徳を積んで、より良い生き方をしようと、いつも心がけています。


 
けれども、このような生死観や霊魂観は、民族性や自然風土にもつちかわれることから、東北アジアの人々、とりわけ多くの日本人は、輪廻説による生まれ変わりの考えをとらないで、死者の霊魂は先祖霊・祖神となって、子孫を加護すると考えています。

 だからこそ東北アジアの人々、とりわけ多くの日本人は、子孫に崇められる人間像(先祖霊)に近づくことを願い、現世の生き方をより良きものとし、死の間際まで意義ある人生を歩もうと心がけます。

 また、古来より日本人は、いつも、どこかで、ご先祖さまの眼が光っていると信じているからこそ、正しい生き方をしようと心がけてきました。けれどもご先祖さまを祀り尊ぶ意識が希薄になりつつある今日、 見えない倫理の規範が日常生活から無くなろうとしています。


 命はいつ果てるかわかりません、今、ここに生きていることがすばらしい。お釈迦様は前世や死後の命運を心配するより、現在の今を、いかにより良く生きるかが大切なことだから、死後のことを問われても、これにお答えにならなかったそうです。すなはち「今をより良く生きよ」とのみ説かれました。

 
最近の新宗教のなかには、特異な輪廻説をもって、救いを求める人々を惑わせているものがあります。
 800年前にも前世の因縁、すなわち現実のありようを、前世の業(ごう)に結びつけたり、不滅の霊魂が六道輪廻するという愚かな思想があったようです。

 道元禅師は「六道の因果に、不落有落をわずらうことなかれ」ときびしくこれらを否定された。この世でなす善悪の行いが、そして今の自分の生き方やあり
さまが、業そのものであるから、「今をより良く生きよ」と重ねて強く諭されました。



     
人身受け難し 今すでに受く 
     仏法聞き難し 今すでに聞く
     この身 今生において 度せずんば 
     さらにいずれの生においてか この身を度せん


        (関西では5月8日・花まつり、お釈迦さまご生誕の日です)

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