「鐘の音」   和尚の一口話                        2002年8月

      第四十三話 命のおまつり お盆
 
       
お盆は ”命のおまつり“ です
       やさしさの心をとりもどし、この世に生を受けた喜びと、
       命の尊さを、祈りましょう。



 あなたにとって、「ご先祖さまとは・・・・・なんですか」
近代の科学は生命のナゾを遺伝子の研究により解き明かそうとしてきました。何万年の昔から、命を受け継いで進化し、一度も途切れることなく連続してきたのが私たちの命です、だからこの命の源、命の連続の跡がご先祖さまでしょうか。

 この不思議な命の源・命の連続は人間の思慮分別を超えたものです。したがってご先祖さまを 「家の先祖」や 「一族の祖先」などというような次元からだけでなく、ご先祖さまを地球生命・命の軌跡として理解したいものです。
「家や一族のご先祖さま」のずっと先に命の源があり、そこから今に至るまであらゆる地球生命が連続しています、このように理解したほうがこころ広々、安らかな気持ちになれそうです。

 何万年もの時間を経た命の連続において、あなたも私も、そして生きとし生けるもの一切が、かけがえのない存在として、命の支えあい、生かしあいのために、この世に生まれてきて、今、ここに生きています。 だから生命に対する考え方も、人間の命を基準に万物生命を見るのではなく万物生命から自分の命を見るという視点に変えてみませんか。

 
 お盆にはご先祖の精霊をお迎えしておまつりします、そしてお盆の数日をご先祖の精霊と共にすごして、お送りします。ご家庭にはお仏壇があって、ご先祖さまを日常おまつりしていますが、お盆には、あらためてお精霊さまとしてお迎えします、そして精霊棚を設けてねんごろに供養します。

 古代より私たちは、生きとし生ける万物生命の精霊をおまつりしてきました。万物生命の精霊、すなわち万霊をまつる精霊まつりが、仏教伝来とともに、お盆行事として伝承されてきました。おじいさん、おばあさんの時代、お盆の精霊棚には 百味の飲食が供えられました、ご先祖さまへのお供え物に加えて 万霊供養のお供え物も用意されていましたが、最近では見あたりません。

 古代より人々は、万物生命と人間を一体的にとらまえて、六親眷属七世の父母のみならず、有縁無縁三界万霊・法界含識をもまつりました。古代より伝承されてきた万霊供養 ・ 精霊まつりのこころに立ち帰って、
盆のおまつりの意義を再考したいものです。

 都市生活者は世代交代により、一族意識が希薄になるにつれて、ふるさとも遠くなっていきます。お盆に精霊棚を設けてご先祖をおまつりする精霊まつりも都市生活者の多くの家庭で受け継がれていません。近年、家族構成が核家族化し
個の生活者も多く、神棚や仏壇のない家も多くなりました。

 そして少子化の時代です、家族団欒のにぎやかな笑い声もなく、朝な夕なに、仏壇や神棚におまいりする、おじいさん、おばあさんの後ろ姿に自然にふれて育っていく子もいません。

 お正月とお盆の年に二回、ご先祖さまと共に過ごす伝承のまつり、ご祖先との魂のふれあいも、遠い昔の物語になりつつあるようです。精霊まつりもやがて「古くさい慣習」として、消え去ってしまうのでしょうか。

 万物生命の精霊をまつるということなど、頭の片隅にもない現代人が多くなったようです、けっきょく現代人は 精神的に孤独なのでしょうか。 年間に3万人を超える自殺者や、凶悪犯罪、人命を軽んじる行動などからして、多くの現代人は、 自分の命の他に、 命の支えあい、 生かしあう、万物生命との命のつながりなど、見えていないようです。

 精神的に虚弱になってしまった現代人には、 古代より伝承されてきた精霊まつりによって、心が癒され、命の活力、すなはち、やさしさの心を取り戻すことができる、やさしさの心によってはじめて幸せが実感できる。精霊を迎えまつり、ほのぼのとしたお燈明を灯して、やさしさの心を取り戻したい、お盆は命のおまつり、至福の祈りの一時です。



[六親眷属・七世父母]  父・母・妻・子・兄弟・姉妹等、親しい関係にある親戚と、
                父母から更に七代にさかのぼっての直系先祖
[三界万霊・法界含識]  欲界・色界・無色界の凡夫世界と一切この世のすべての精霊
                                 
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