「鐘の音」   和尚の一口話               平成14年10月1日
   
    

     第四十五話
   あまねく自他を利するなり
   
          自らを 生かそうとするならば
          他と共に 生きることである
          他を生かさずして 自らを生かすことはできない


 世界中に市場経済が広がりました、生活が豊かになっていく人々があれば他方では深刻な問題として飢餓・紛争・環境破壊・貧富の差が、いっそう拡大しています。.
 国際金融市場で は、株価の変動に一切の注目が集まる、為替や株の取引のみならず〈 ヒト・モノ・カネの企業 〉や、〈 地球温暖化問題に関わる二酸化炭素の削減量 〉までもが、商品取引と同じく投資の対象として売買されます。

 市場経済においては、国際競争に勝てる企業が生き残ります。徹底的な合理化のために、有能な技術者でもリストラの憂き目にあい、長年貢献してきたと自負する企業から解雇を言い渡され、希望も自信も喪失します。額に汗して死にものぐるいに努
力しても報われない、非情な経済効率一辺倒の時代になったのでしょうか。


 20世紀最後の10年より、市場経済が世界に広がり、かってない繁栄をアメリカにもたらしました。ところが、21世紀の最初にアメリカで起きた同時多発テロ事件以来、市場経済に 疑問を抱く人々も 多くなってきました。市場経済は目先の利益のみを優先するために、現代社会や、将来世代にとって大切なものが、ないがしろにされるのではなかろうか、本当の豊かさとは何か人々は疑念をいだきはじめました。

 アメリカの企業のように、株主の利益のみを重視したり、日本の大手企業のように
企業や経営者の利益のみを最優先する経営姿勢から問題が発生した場合、消費者より痛烈な批判で社会的責任を問われ、その企業の存続すら危うくなる、手痛い制裁を受けるようになりました。


 
日本経済を支えてきた企業経営者に 近江商人の流れを受け継ぐ人が多いという。相手良し・自分良し・世間良し」 この三つが満足しなければけっして商売を進め
なかったという近江商人の心意気の話があります。営利追求のみを目的としなかった近江商人の経済活動の根本理念です。

 相手・自分・世間のいずれも良し、この三つが満足する商売をめざした近江商人の心意気は、そのままお釈迦様の教え、他を幸せにする布施行に通じます。道元禅師も「利行は一法なり あまねく自他を利するなり」と教えられました。
 企業が社会的に貢献するからこそ、同時に自企業を利することになります近江商人の経済活動が、 自らの営利追求のみを目的としたものでなかったために世に認められ、受け継がれて発展していったのです。

 人々は物の豊かさのみならず、心の豊かさをも、もとめています。この意識の変化が、物質文明を支えてきたこれまでの市場経済に代わって、"脱市場経済"と呼ぶべき新しい経済活動を模索し始めたのです。
 それは株価の変動に翻弄される金融市場や営利追求のみを目的とした経済活動の時代にあって、企業活動を通して、さまざまな利益を社会に還元していこうとする、企業あるいは人が社会に貢献する経済活動です、21世紀になって、その兆しが見え始めたようです。

 このような新しい経済活動は、インターネットなどの情報によって進展するでしょう。そして今もとめられるのは、 しっかりとした企業の経営理念であり、企業家の人柄でしょう。
 日本は不況で経済は疲弊していますが、世界有数の金持ちであることに変わりはない、しかし豊かさは、お金だけの尺度では計れません。自分のために金儲けの欲や名誉欲を求めるのか、他人や社会の利益をも合わせ求めるのか、その動機や結果が、その人の見識として問われます。


     
利行は一法なり あまねく自他を利するなり」すなはち
       
相手にとっても、自分にとっても、世の中にとっても、すべて良し
     これを判断の基準として、歩むべき道を迷わないようにしたいものです。

戻る