「鐘の音」   和尚の一口話            20002年11月1日 
 
    第46話  随処に主となる
   
     自分の本来なすべきつとめをよく感じとり、自由自在に
    生きることができれば、人生は楽しいものとなるでしょう



 「あなたの居場所がありますか」と尋ねられたら、どう答えますか。くつろげる、気持ちが安らぐ場所があります、そのような居場所があれば、幸いです。でも何処にいても何か物足りなく、不安を感じる人もあるでしょう。

 
居場所が見つからなくて困っている人、見つけるのに苦労している人もいるでしょう。それで、旅行やハイキングで非日常的な体験をする、スポーツで汗を流す、野菜や花を栽培したり、農作業で土に親しむ、山野に出かけて自然にふれる、書・絵画・音楽・茶華道などを楽しむ、落ち着かないから、いろんなことで気分をまぎらわしています。ボランティア活動に参加する、公園の広場や便所の掃除をする、霊場巡りや精神的修行をするのもよいでしょう。


 自分をとりまく環境が激変することがあります、お金、仕事、健康、家族のこと、精神的な疲れ、など、悩みや不安は尽きることがありません。悩みごとや不安で夜も眠れないことはだれでも経験することですが、ずっと続くと、過労、精神的疲労、心身障害など深刻な問題となり、自分の居場所があって癒されることがなければ、自信喪失や無気力になり、自分自身の歩むべき方向をも見失ってしまいます。

 
お釈迦様のことばに「他に依止するものは動揺す」とありますが、他が動けば自分も動揺してしまう、人間の弱さです。なんのために生まれてきて、なんのために生きているのかという根本問題を、ないがしろにしているからです。


 重苦しい世相にあって、 人々に自信と希望を与えてくださった ノーベル物理学賞を受賞の、 ニュートリノ天文学の 東京大学名誉教授 小柴昌俊さん、そして ノーベル化学賞を受賞の、タンパク質解析技術の 島津製作所エンジニアの田中耕一さん、 ともに長い研究の過程では、 試行錯誤され、 苦労と悩みを乗り越えたところに、 真実をつきとめられた発見がありました。

 自 分の
使命がなんであるか、 私でなければならない仕事があるのでは、自分
に向いていない仕事、 嫌いな仕事と思っていても、 全身全霊を打ち込むことで、思わぬ評価を受けると、 仕事の良さ楽しさが分かり、 社会に貢献していることの喜びも、わいてくるというものです。


 「随処に主となる」という言葉があります、一つのことに心をこめる、 なりきる自分の置かれた立場、その場その場を精一杯にやれば、何処にあってもそこに生き甲斐を感じるなにかがあるはずです。

「気にいらぬ 風もあろうに 柳かな」 という句がありますが、ものごとを避けたり逃げたりすることなく、 他に動揺することなく、 何ごとにも執着することなく、自分のなすべき本分を感得し道を踏み外すことなく、常に 自己の仏心を覚まして自由自在に生きることが、「随処に主となる」 ということでしょう。
 一時的に平安を得ても、目の前の変化に翻弄されるようでは、 ほんとうの安らぎとはいえません、最適な居場所を持ち合わせて、動じないことです。

   背伸びしても人生、力んでも一生、他生もなければ 後生もなし
   今生を楽しく生きるのみ、願わくは仏と我と、共生きがよい

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