2011年8月1日  第151話
       プラス発想
 山河大地日月星辰これ心なり  道元禅師
  
     自分とは、自然から分かち与えられたもの
 

人間の遺伝子は、働いているのは5%で、95%は眠っている


 ヒトの細胞は60兆個もあるそうですが、元をただせばたった一個の受精卵の細胞から、私たちの命が始まり、十月十日で3兆個の細胞の赤ちゃんとなり、この世に誕生します。
 その細胞の一つ一つに同じ遺伝子が組み込まれている。遺伝子は親から受け継いだものですから、先天的ではあるけれど、一分一秒も遺伝子の働きはとまることなく、環境の変化や心の動きに敏感に反応しているという。
 近年、生命化学の研究がすすみ、ヒトの遺伝子の暗号が解読され不思議な生命の謎が一つ一つ解けてきました。

 生物の基本単位は細胞で、細胞の働きは遺伝子によって決定される。遺伝子は同じ一つの原理で働いている。一つ一つのの細胞の核に含まれている遺伝子はA、T、C、Gの四つの化学文字で表され、30億個の情報を元に細胞を働かしている。人間の身体は精密な生命の設計図でかたちずくられ、このDNAに書き込まれた膨大な情報によって生きているという。
 遺伝子に書かれている暗号はタンパク質をつくる暗号であり、タンパク質は身体の構成要素であり、身体の中で起こるさまざまな化学反応に必要な酵素やホルモンなどの材料でもあり、20種類のアミノ酸からできているそうです。

 人間も植物もカビも、すべての生きものは、同じ遺伝子の暗号でできている、この基本原理から、38億年前の一つの細胞から、すべての生きものは始まったことがわかった。人の遺伝子暗号を比較すると、天才といわれる人も普通の人も、遺伝子レベルでは差がないそうです。

 人間がしゃべる時にも遺伝子が働いている、言語情報を脳から出すときには遺伝子の働きがいる。遺伝子はDNAという暗号で書かれているが、働いている遺伝子は5%程度で、95%は働いていないという。それで寝ている良い遺伝子をONにして、起きている病気になるような悪い遺伝子をOFFにすることができれば、
病気を防ぎ長寿になるという。また眠れる遺伝子がとんでもない未知の力を秘めているかもしれません。遺伝子のスイッチは、さまざまな刺激や環境変化や気持ちの持ち方によって、ONにもOFFにもなるから、良い遺伝子をONにすれば、人生が充実して幸せに生きられるということです。

元気の出る遺伝子をONにするには、感動すること、プラス発想すること

 筑波大学名誉教授の村上和雄さんは、「笑い」は遺伝子にも影響することを実証された。糖尿病の患者は血糖値が上がりすぎて困るのだが、食事の後で、大学教授の講義を一時間聴くのと、吉本興業のお笑いを楽しむのとではどうなるかを比較された。講義を聴くより、吉本興業の「笑い」が有用な遺伝子をより活発化させる力をもっているという。「笑い」だけでなく、リラックスすると、遺伝子の活性化が起こり血糖値が上がるのを抑えるそうです。

 ほとんどの病気は遺伝子の働きに関係する、遺伝子が正しいかたちで働かないとか、働いては困る遺伝子が働き出すのが病気です。病は気からといいますが、気持ちの持ちようで健康を損ねたり病気に打ち勝ったりもする。
 強い精神的ショックを受けると白髪化という老化現象が一気にでる。末期癌で余命数ヶ月と宣告されても半年、一年たっても元気な人がいます。マイナス発想すると、悪い遺伝子を働かせてしまう。結果をプラスに考え、プラス発想でとらえるほうがよい。

 環境が遺伝子に影響をあたえる。環境や心の変化によって、今まで眠っていた遺伝子が活性化する。
遺伝子スイッチのON・OFF
  物理的因子・・・高温、低温、圧力、運動
  科学的因子・・・アルコール、喫煙、食物、環境ホルモン
  精神的因子・・・ネガティブな因子・・・ストレス 
            ポジティブな因子・・・感動、興奮、喜び、愛情

糖尿病とストレス
  陰性ストレス・・・不安・悲しみ・恐怖・怒り・・・血糖値が上がる
  陽性ストレス・・・快い、楽しい、嬉しい、癒された・・・血糖値が下がる

 行き詰まりを感じたら、自分の環境を変えてみることです。新しいものに触れることは、OFFになっていた良い遺伝子を目覚めさせる。人との出会いや、環境を変えることで人生が変わる。
 人生をよりよく生きるために、なにごともプラス発想でとらえるほうがよい、そして笑いは幸せを生み出す大きな力です。先のことをあまり考えず、目の前のことに精一杯取り組むのもよいことです。

微笑みの仏

 今から200年前の人で、徳川八代将軍吉宗の時代に木喰上人という僧がいた。享保三年西暦1718年、現代の山梨県に生まれ、1810年93歳で亡くなった。21歳で出家して、44歳で観海上人より「木喰戒」を授かり、長年この「木喰戒」に生きたことから木喰さんとよばれています。
 55歳にして、北海道から九州まで全国各地を遍歴して、行く先々で仏像を彫り、郷里に帰ったときは82歳になっていた。ところが88歳にして新たな願をかけ、再び故郷を後にして各地を遍歴して仏像を彫り、93歳で没した。同じ時代の円空さんが荒々しい彫りで喜怒哀楽を表したのに対して、木喰さんはやさしい彫りの微笑仏を残した。

 木喰さんは終生「木喰戒」を保った。「木喰戒」とは肉魚はもちろん、米麦豆稗粟の五穀をも食さず、塩もとらず、火をとおしたものを食べなかった。蕎麦粉を水でといて食した、超低カロリーの食生活であったと伝えられています。さらに、臥具を用いて寝ることなく、つねに衣一つであったという。蕎麦を食したことから、街には逗留せず、蕎麦が栽培されている片田舎や山間僻地をまわっていたようです。蕎麦粉が得られて、雨露をしのぐ場があって、彫刻の材料があればとどまり、その地に仏像を彫り残している。

 木喰仏には何とも言えない情感があふれている、なかでも89歳のとき5ケ月間滞在した丹波の清源寺で彫った16羅漢は木喰の最高傑作といわれ、そのユーモラスな表情の微笑仏は後の世の人々を魅了してやまない。この時、自らを木喰明満仙人と称しています。木喰の存在は近年になって、柳宗悦の目にとまり、後に河合寛次郎、濱田庄司、棟方志功らによって、広く世に知られるようになった。

 丹波の清源寺の地域の人の伝えるところによると、闇夜に鑿の音が聞こえる、行ってみると真っ暗闇に線香一本の明かりで木喰さんは彫っていたという。まさに心眼で、木に宿っている仏の性を彫りだしていたのです。
 木喰仏は名も無き庶民によって大切に守られてきた。辛く苦しいとき木喰仏が生きる希望と勇気を与えた。争いを鎮め、貧困や天災にあった人々の心を支えてきた。粗末なお堂にまつられて、お経も読めず、仏の教えにも巡り会えない、そんな人にも仏の教えを授けている。

自分とは、自然から分かち与えられたもの

 生きものには寿命がある、遺伝子は非情であり自己の老化や死に向けても働く。食物が老化と関係しており、低カロリー食は老化の進行を遅らすという。木喰さんは蕎麦のみを食し、 臥具を用いて寝ることなく、いつも衣一つで全国を遍歴する流浪の旅人であったが、驚くほど長寿で93歳の人生をまっとうした。木喰さんは一般人とはかなりかけ離れた生活ぶりであったが、物質的にめぐまれすぎて満ち足りていると、良い遺伝子のスイッチがONにならないのかもしれない。

 木喰さんは蕎麦を食したことから、片田舎や山間僻地をまわり、長く一ところに留まらなかった。環境が変わると遺伝子のはたらきも変わるという、日々ちがった人との出会いや自然との出会いから、ひらめきや感動が生まれ、木喰さんの良い遺伝子のスイッチがONになった。
 遺伝子は歳をとらないから、いくつになっても才能を開花させる能力を遺伝子はもっている。木喰さんのように年老いてからも、全国各地に遍歴を続け、いつも心の琴線をふるわせ感動し、情熱と実行力があれば、良い遺伝子がONとなり、何歳であろうと開花可能です。


 木喰さんは一大決心をして55歳にして諸国遍歴を始めた。それは行く先々が命の終焉の場となるかもしれない、生きながらに仏になる即身成仏をめざした死出の旅であったと考えられる。ところが良い遺伝子のスイッチがいつもONであったがために、天地の恵みに生かされて、93歳にしてやっと仏になれた。
 即身成仏をめざした木喰さんの生き方は、はからずも日々が即心是仏(心即是仏)の修行であった。一分一秒も遺伝子の働きは止まることがない、木喰さんが全身全霊をこめて
彫り続けた千体を超える仏像は、ことごとくが木喰さんの人生の終止符となったかもしれない自刻像だといえる。

 最近の日本人には何となく閉塞感が漂っています、サッカーワールドチャンピオンなでしこジャパンのように、もっと自信を持つべきです。それには日本人の民族精神を再認識したいものです。道元禅師は、「山河大地日月星辰これ心なり」と説かれた。自分とは自然から分かち与えられたものです。大自然の大いなる力のもとで生かされている、与えられた命を生ききることを忘れてはならない。言葉にすれば、「いただきます・ありがたい・おかげさまで・もったいない」 この心こそ良い遺伝子がONになる、世界に誇れる日本人の心であり、木喰さんの心です。
 良い遺伝子をONにするには、背筋伸ばして姿勢をよくし、肩肘張らず呼吸を整え、常に心静かに笑顔でプラス発想で生きていくのがよさそうです。

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