2013年5月1日 第172話      

                      
               就活

   
   
 玉は琢磨によりて器となる。人は錬磨によりて仁となる。
    いずれの玉か初より光りある。誰人か初心より利なる。
    必ずすべからくこれ琢磨し錬磨すべし。
    自ら卑下して学道をゆるくするなかれ。
                     
正法眼蔵随聞記


就活の現状


 企業や官公庁などに正規雇用されるために就職活動することを、略して就活と言うようです。転職や自営業を始めるための活動は就活といいません。
 安倍首相は大学生の就職活動の解禁時期を、現在の「3年生の12月」から「3年生の3月」に3ヶ月遅らせるように、また企業が「4年生の4月」から実施している面接などの選考も、「4年生の8月」に遅らせるように経済界に要請しました。

 このように就活の期間が3ヶ月短くなって13ヶ月になると、大企業の後に始まる中小企業の採用活動の期間が短くなるから、卒業までに就職が決まらない学生が増える可能性が指摘されています。大企業が時間をかけて採用し、中小企業が限られた時間で学生を取り合うという短期化の弊害がさらに拡大するとの声もあります。

 大学生の就活について「学生が十分に学業に取り組めていない」という批判や指摘があることから、こういう国の動きがでてきたのでしょう。また大学に対しては、学生が3年生までに職業観を養うように、就活までに自己の進路を自信を持って言えるような教育を進めるべきであるとの指摘もあるようです。

 日本型雇用の典型的なシステムが年功序列であり、そのために新卒一括採用が今もおこなわれています。年に一度の採用制度は新卒者の就職機会を限ってしまうのみならず、職に就けない大卒者を増やしています。年に一度だけということで、長い時間をかけて何十社も受け、その準備に労力を費やし、学業に専念できないことも問題になっています。

就活の問題点

 日本では新卒制度のもとで、ビジネス経験のない人を学歴で判断して採用します。学校を良い成績で卒業したとしても、それがかならずしもビジネスの世界で成功につながるとはいえません。経験のない人を雇えばそれだけトレーニングの時間と費用がかかります。そして就職しても、その人が必ずしも職種に適合しているとは限らないから、おのずと離職率も高くなります。

 就活に失敗すれば来年まで持ち越しとなり、入社も一年遅れるということもあるようです。アメリカでも学生が就職のために何時間も就職準備に費やすことには変わりないけれど、日本のように新卒者だけに焦点があてられることはないようです。アメリカの学生はインターンシップという形で経験を積み、履歴書の内容を増やして、卒業時に即戦力となる力を養っています。

 企業の採用は基本的には自由ですが、完全に自由化すれば企業も学生も混乱するから、ガイドラインが設けられています。ところが大学一年生に内定を出す企業もあらわれ、通年採用や留学生の採用を増やす企業もでてきました。大学側においても秋入学という動きがあります。

 新卒一括採用でなく、経験や能力や技能があれば中途も新卒も関係なく、多彩な採用をした方がより幅広く人材を採れるはずです。グローバル化の時代、海外企業との競争を考えれば、有能な人材をいつでも積極的に採用できる、そういう柔軟さが必要でしょう。

就活うつ

 NPO法人「POSSE」が2010年に学生600人を対象に調査したところ、就活経験者の7人に1人が就活うつになっているという。日本では22歳で大学を卒業して就職するのが当たり前で、就職できずにいると社会不適応と見なされてしまいます。就活において、学生は時間のなさとプレッシャーから、ストレスによって健康をそこなう人が多くいるようです。

 どうして就活うつになるのでしょうか。面接をいくら受けても不採用続き、そんな経験を重ねるうちに、自分が社会から必要とされていないと感じてしまうようです。人生経験も少ないから、深刻に考え過ぎてしまうのでしょう。就職氷河期といわれる時代です、何十社受けても内定を得られない学生も多いようです。そしてその状態が続くと落ち込んでしまい、うつ状態に陥り、なかには自殺してしまう深刻なケースも報告されています。

 また最近では、親が子供の就職活動に首を突っ込むケースも増えているとか、親の期待に応えていないということで、親の期待が大きな負担となっている学生もいるようです。子供の頃から親の期待に添うように頑張ってきたけれど、これ以上もう頑張れないということで、うつにはまっていくパターンもあるようです。

 大学まで親の期待に応えて、エリートコースを進んできたが、就職活動がうまくいかなくて、うつにはまっていく。うつに限らず若い人の摂食障害やひきこもりもみられます。そういう親からどうしたら自立していけるのか、就活を機にこれから先の自分の人生を考えてみるのも大切なことです。就活がうまくいかなかったと嘆くより、 新しい自分を生きるべきです。新しい自分とは、他人の評価を気にするよりも、楽しいこと、好きなこと、やりたいことができる自分です。

 挫折からの脱出

 挫折感を受け続けると、どうせ頑張っても報われないと感じてうつに近い状態になり、状況を変えようという気すら起こらなくなってしまう心の状態を「学習性無力感」と言います。就活でうつの状態に陥っても、解決策はやはり行動を起こすことです。状況を変えようと行動を起こせば、無力感から脱して状況をある程度自己コントロールできそうに思えてくるはずです。行動を起こすことで良い循環がうまれてきます。

 挫折感を受け続けているとしても、なにごとも悪いことばかりではないはずです。うまくいっていないと感じているのはほんの一部で、うまくいっているものがいっぱいあるはずです。もっと高い視点から見ると喜ぶべきことがあるはずです。焦らずに問題点を整理してみるべきでしょう。自分の身の回りも整理すると気分が変わりすっきりします。そして背筋を伸ばして、肩肘張らずにお腹の底からゆっくりと息を吐く、そういう呼吸法に変えていくと気持ちが軽くなります。

 高齢社会では古い世代の人たちの興味や関心が溢れていますが、新しい商品開発や新産業をつくるのには、若い人たちが必要です。正規雇用にありつけない若者が、短期雇用や低い給与の仕事をしていますが、革新的な新しいものを作り出すには、さまざまな考えやアイデ゙イアを持った種類の人々がそれを可能にします。超高齢社会に移行しつつありますが、世の中は多様性を求めているようです。

 「玉は琢磨によりて器となる。人は錬磨によりて仁となる。いずれの玉か初より光りある。誰人か初心より利なる。必ずすべからくこれ琢磨し錬磨すべし。自ら卑下して学道をゆるくするなかれ。」と正法眼蔵随聞記にあります。知識でも、技術でも、高めることにおいて終わりはなく、人格にも完成はないので、日々に琢磨し錬磨すべしということでしょう。
 琢磨し錬磨するところ、あらゆるチャンスがめぐってくるでしょう。人間とは世の中という意味ですから、生きていくのには世の中に役立つことをすべきです。世の中があなたを必要としています。


   出版のご案内
卒哭(そつこく) 
生き方を、変える

神応寺住職 安達瑞光著

   書店でご注文ください 
Amazon 楽天 Yahoo
でも買えます

発行 風詠社 発売 星雲社 1575円(税込)

 

                         戻る