2021年2月1日 第265話
             
三つの徳

        (ひま)もなく 雪はふりけり 
         
谷深み春きにけりと 鶯ぞなく
 
                               
道元禅師


人類は太古の昔から感染症と戦ってきた

 中国武漢で発生した新型コロナウイルスがまたたくまに全世界に感染拡大し、地球人口の1%が感染した。衰えるどころか二次三次の感染が広まり、ワクチンが開発されて投与が始まったが、また新たに変異したウイルスの感染拡大により人類は恐怖を感じています。人類はこれまでに何度も疫病の広域な感染に遭ってきました。いずれも無限に感染拡大することはなく、やがて収束したから、人類は経験から、ワクチンの開発や感染の拡大防止にとりくみ、収束するであろうという期待のもとに、この難局に立ち向かっている。

 ウイルスは他生物の細胞を利用して自己を複製させる極微小な感染性の構造体です。新型コロナウイルスは人から人へ感染します。それは、人の遺伝子とコロナウイルスとのせめぎ合いの戦いです。いずれにも子孫を残すためにコピーをつくるという命題がある。生物の遺伝子には代謝能力があり自己増殖するが、コロナウイルスには代謝能力がないから、生物に感染することで自己のコピーを残すのです。人類は太古の昔から感染症と戦ってきました。この戦いに終わりがなく、生物がウイルスに対抗するという防衛行動は永遠に続くのです。

 コロナウイルスの感染拡大のためか、インフルエンザ患者と死者が激減した。とりわけ日本ではコロナによる死者数を加えてもウイルスによる死者が大幅に減ったということです。ところが自殺者数が今後増えるのではないかという心配がある。コロナの影響によるものかわからないが、女性と子供の自殺者数が増えてきたということです。景気が悪くなり、失業者も増えると予想されており、自殺者数が増えると予測されることから、人々に安心感を持たせることが重要です。ウイルス感染についてのマスコミの偏向報道により人々は恐怖心をいだき、また偏見差別もおきていることから、メディアは不安を煽るような報道はひかえるべきで、不安を取り除くという報道姿勢が求められる。

 遺伝子をもつものは、人間だけでなく、地球上の生物個体である動物、植物から微生物に至るまで共通しています。さまざまなウイルスとの感染をめぐる攻防に終わりがない。生物の個体はそれぞれが抗体を身につけ進化して、変異する新たなウイルスと攻防をくりかえしていく。人とウイルスとの永遠に続く攻防戦は自然なことであり、無限の付き合いをしなければならないのです。

縁起により生滅する

 この世界に存在しているものはことごとくが互いに関係している、互いの関係の上に存在している。互いに関係しているから存在しているのであり、関係しなくなれば存在を失う、すなわち滅する。それは条件と原因とにより存在している。生滅は条件と原因による、これを縁という。縁がかかわってことごとくのものは生じて、そして滅する。縁によるから縁起という。縁起によりあらゆるものが因果(原因と結果)として生滅している。

 山も川も、植物も動物も、そしてコロナウイルスも縁起により存在しており、縁起により生じ、また滅していく。宇宙の星も、宇宙そのものも同じです。明けの明星の輝くさまをごらんになったお釈迦様は、この真実に目覚められたのです。ことごとくがありのままであり、ありのままに生滅している。このことをお釈迦様は諸法無我といわれました。

 父母が出会うという条件、精子と卵子が融合するという原因。この条件と原因が満たされて子ができる。精子の遺伝子と卵子の遺伝子が出会い新しい遺伝子がそなわった受精卵が生まれる。これが遺伝子の乗り物である生物の個体の出現であり、受精卵が増殖して子として誕生する。

 したがって生命体の根本は遺伝子であるということです。
生まれてくるということは遺伝子の受け継ぎです。人の体すなわち
生物の個体は遺伝子の乗り物であり、生命は遺伝子が根本であるから、生命の根本は霊魂でない。したがって霊魂が常住するということ、つまり、肉体は生滅するけれど魂は不滅であるということはない。


お大地さまは仏さま

 受け難し人身を得た、すなわちこの世に人として生まれてくることができたということを最大の喜びとしたいものです。綿々と受け継がれてきた命とは、現代風にいえばそれは遺伝子です。太古より日本人は命の流れ、命の源を先祖霊として尊び、命の受け継ぎを可能としてくれる天地の恵みに感謝の念を忘れなかった。山川草木を八百万の神として畏敬の念を抱き、念ずることで安心と安全を保ってきました。八百万の神は時には天変地異の災いを生じさせるが、それも天地の恵みであると謙虚に受けとめてきました。

 愚僧が永平寺に修行僧として安居していたときのことです。丹羽禅師が永平寺の山門の回廊をお通りのときに、境内の掃除をしていた修行僧が痰唾を吐き捨てたのを目にされ、大きな声で修行僧に「お大地様に唾を吐き捨てるなんてとんでもないことだ」と一喝されました。お大地さまは仏様だと諭されたのです。道元禅師は「十方法界の土地草木牆壁瓦礫皆仏事(とちそうもくしょうへきがりゃくみなぶつじ)をなす」といわれました。山川草木、石ころも木片もみな輝く仏なりということです。

 この世の中に存在しているすべてのもの、土地草木牆壁瓦礫は、ことごとくが互いに関係している。関係しているから存在している。ことごとくがことごとくと関係しており、そのことごとくをことごとくが存在せしめているということです。この世のすべて、そのありのままが共存であり、生物においては共生です。土地草木牆壁瓦礫は皆仏であり、仏が仏を生かしている。山川草木は八百万の神に生かされているのです。生かされていることの感謝の気持ちを忘れてはならないのですが、人は人間の物差しで受けとめようとするから、自ら息苦しくしてしまうようです。

 共存、共生のありさまは、この世の存在のことごとくであり、現前のありのままの姿そのものです。ことごとくが、ことごとくを存在せしめているということは、ことごとくの存在はことごとくの存在を必要とするということです。したがって、必要でないものは存在していない。のみならず、必要とされないものは、もとよりこの世に生じてこないし滅することもない。これは人のみならず、山川草木のすべてにいえることで、コロナウイルスも例外でないということです。

三つの徳

 コロナウイルスの世界的な感染がいっこうに収束しません。それは人々の生活ぶり、生き方、人間社会のことごとくに影響をあたえています。この感染拡大により、世の中がどのように変化するのかについては、現状を正しく把握して、その先行きを見通さねばなりません。自己の思慮分別を先にすると、ことごとくが自分の物差しで受けとめてしまい顚倒夢想、すなわち誤った想念にはまり込んでしまうから、ここが肝心なところです。

 進むべき方向や生き方を迷いなきものにするためには、観点を揺るぎなきものにすべきです。それでキーワードを「共生」としたい。またイデオロギーに煽られたり、邪教にかぶれないために、真実は何であるかを見抜く力が求められる。したがって、まずは自分にも社会にも正直でありたい、そして変化の時代の生き方として、ポジテイブであり、アクテイブであるべきでしょう。

 
コロナ禍で何が変わろうとしているのかを予想し難ければ、自分の姿勢や立ち位置を変えてみましょう。仕事の向き合い方においては、その仕事に喜びを見出し、楽しみながら自己実現を目指す。積極的に主体的に情報を受発信していく。共生の世界であるから、自立と助け合い分かち合いを基本とし、経済優先から人間優先に転換する。学歴や地位、お金よりも、人間性や精神性を重視する。価値観において人間中心から自然や宇宙という大きな広がりに視点を置く。身近なことでは、家族友人を大切にする。などとということです。

 
個人の生き方において「共生」というキーワードが有効にはたらくためには、現前の有様をそのままに受けとめる謙虚さと、なにごとにも公正であるという判断能力を失わないことです。それで共生の世の中での生き方とは、次の三つの徳を積むことでしょう。
 ・ 自分が他から社会から必要とされる徳
 ・ 自分が他から社会から感謝される徳
 ・ 自分が他から社会から尊敬される徳

 徳とは、人を心服させる性格や能力のことです。この三つの徳がそなわっておれば、人は心底から幸せであると実感できるでしょう。


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