2021年3月1日 第266話
             
一大事因縁

     (ただ)生死(しょうじ)(すなわ)涅槃(ねはん)と心得て、生死として(いと)うべきもなく、
     涅槃として(ねが)うべきもなし。
     是時(このとき)初めて生死を離れる(ぶん)あり、
     唯一大事因縁(ただいちだいじいんねん)究盡(ぐうじん)すべし。
 修証義


最初の生物の遺伝子に由来

 地球上に870万種の植物や動物が生息しているとの推定値があります。ただしその90%はまだ発見ないし分類されていないといわれています。いずれの生き物も環境の変化に適応し、競争に打ち勝ち、より多くの子孫を残せたものが存在しているということです生物界の特徴として、単細胞のミドリムシから植物や動物など多種多様であるが、生命の基本的な仕組みには共通するものがあります。すべての生物について遺伝子情報は基本的に同じであるということです。これは地球上にあらわれた最初の遺伝子を持つところの生物に由来しているからです。

 このことは地球上の多様な生命は、共通の祖先から、長い進化の歴史の中で生じた連続した変化の結果であることを物語っています。多様な生物が存在しているが、生命体は化学的に同じ材質で作られ、同じ遺伝子言語を用いているという共通性がある。三十数億年にわたる生物の進化の過程は、遺伝子の進化によるものであり、背景に環境要因があるとされている。けれども、同じ種であってもわずかながら遺伝子情報を異にしているから、多様な生命が存在しているのです。

 生きものの身体は、無機物や有機化合物からなる。それは宇宙の星のかけらが集積して地球が形成されたから、その成分は酸素や、炭素や水素、鉄、などの元素です。生命体はこれらの元素よりなり、大地に生まれて、大地に生き、大地に滅する。すべての生き物は無機物や有機化合物からなる構造体であり、互いにつながりをもち、つながりのもとに存在している。

 多様な生物が同じ遺伝子言語を用いているということは、太古の地球上にとてもまれな偶然の結果生じたある一つの生命体から、何十億年もかかって進化してきた生命体一族の一員であるということです。遺伝物質は柔軟で融通性に富んだ設計図によって作られているから、多様な種が生まれてきた。個体間においては遺伝物質にわずかながらも差異がある。したがって、同じ人類であっても微差があるということは、他の人にないその人固有の遺伝子をもっているから個性があるのです。個性があるから、それぞれの生命が尊いのです。そのことは人のみでなく、この世に存在するさまざまな生きものも同じです。

生命とは動的平衡の流れ

 生物学者の福岡伸一さんによれば、物理や化学で使われる「動的平衡」ということが生物にも当てはまり、生物は動的平衡の流れであるといわれる。食べ物は単にエネルギーの供給のみでなく、次々と体を再編成する分子を供給しているという。
「生物は食べるということで身体のタンパク質が置き換わっていく。人間の体も一年もたてば、脳も心臓も骨も一切の例外もなく、分子レベルで新たに置き換わっている。私たち生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい淀みでしかありません。これを動的平衡といい、この流れ自体が生きているということだ」といわれた。

 新陳代謝とは、生命の維持のために有機体が外界から取り入れた無機物や有機化合物を素材として行う一連の合成や化学反応のことです。生きているということは、身体のどこもかしこも新陳代謝しているということです。ところが何らかの原因により、新陳代謝が正常になされなくなると病気になり、新陳代謝の量が縮小してくると老化が進みます。

 生物体を時の一瞬で観察すると、それは動的平衡の淀みの姿です。そして生物体の一生の有様とは、新しい生物体となる細胞の誕生に始まり、生命体は新陳代謝を重ねて成長し、子孫を残し、やがて死ぬということです。死とは、生命体を形づくっていたものが分解されて大地に帰り、生物体が消滅するということです。これが生物体の一生であり生老病死です。お釈迦様はこのことを諸行無常と言われました。

 福岡伸一さんによると、生命とは動的平衡の流れだから、食べるということはカロリーの燃焼だけでなく、生物体の細胞の入れ替わりであるといわれる。したがって刻々と新陳代謝しているから、生物体は個体というより流体であるということです。したがって昨日の私と今日の私とは違う、いつも新しい私です。そして生物体の細胞は、作られるよりも分解する方が先で、壊されるから作られるという原則にもとずいているそうです。自然界における動的平衡とは、生物体は縁起により大地に生まれ、縁起により大地に帰って行くということで、このことをお釈迦様は諸法無我と言われました。

免疫力を高める

 生物体はたえず変化する環境に対応していかなければならないから、生体の防御に関わる免疫系と外界からの刺激を感じ行動に移す神経系の両面の能力がそなわっている。生物個体の進化は環境変化のもとでの偶然によることのようですが、それは遺伝子レベルでの進化です。また、人の体内にさまざまな微生物や菌が同居しているのは、ウイルスや微生物とともに進化してきたからです。


 生物の長い進化の源流をたどれば、生物の個体においては心臓や肺などの呼吸器系のものより先に腸がいち早くできたそうです。腸は栄養分を吸収するはたらきとともに、消化しきれないものとか、代謝した細胞のカスを糞として排出する役割をしています。ウイルスは宿主となる生物の腸から侵入して、血管を巡り自らのコピーを増殖させる。だから、腸の働きが弱くなると免疫力が低下して、ウイルスに侵入されるから、新型コロナウイルスの感染防止においても、常に腸のはたらきを順調にしておくことが大切です。

 免疫力を高めることが感染予防になります。それで腸の働きをよくするヨーグルトなどの乳酸菌や発酵食品の摂取が有効です。日光を浴びることで体内にビタミンDができるから、ウイルスの感染を恐れて室内に閉じこもっていると、ビタミンDが不足して免疫力が低下する。したがってビタミンDを豊富に含む食品を摂るか、サプリメントで補給して免疫力を下げないようにしたい。また、人の体温は36.5度程度ですが、体温が下がると免疫力が低下するそうです。それで入浴や日光浴が有効です。お酒を飲むとか体の温まる食事をするのもよいでしょう。適度な運動をするとか、冬場は暖かくして過ごしたいものです。

 口鼻目からウイルスが侵入することで感染するから、手洗い、うがい、そして口鼻目に手で触れる前にアルコール消毒を忘れないことです。とりわけ便所や下水といった所が感染の危険な場所だから、便座や便所のドアノブ、下水に近い場所での足下の注意は感染防止に不可欠です。飛沫感染はマスク着用で防げるでしょう。自己同一性すなわち自分は何者なのかを認識して、害するものの侵入を防ぎ身を守るのは免疫によることから、免疫力を高めることを怠らないようにしましょう。

一大事因縁とは生死即涅槃

 生きものには自己の子孫をより多く残そうとする本能がそなわっている。それで雄は雌を、雌は雄を求めてさまざまな行動をします。人も異性の注目を得るために、女性は化粧や装いを、男性は強さを誇張します。さらには財力を蓄えるとか、よい車や家を持ちたい、美味しいものを食べたいなどと、欲望を高めます。そして欲望を充足するために悪しき知恵をはたらかすことから、苦しみや悩みを呼び込んでしまいます。これが浅はかで愚かな人間の姿です。

 欲望とは貪瞋癡(むさぼり、いかり、おろかさ)の三毒の心そのものであり、これが煩悩です。この三毒の心がはたらくと悪しき行いをしてしまいます。人はこの三毒の心のはたらきを自制して、自然の道理に則して生きる理想的人間像に近づこうとするのですが、三毒の心を消滅できないから、心のおもむくままに勝手気ままな自分本位の生き方をしてしまう。これを凡夫の哀れさというべきです。

 生命体は己の意思にかかわらず、心臓は鼓動し、さまざまな臓器も働きをしてくれている。自己の身体を構成する50~60兆個の細胞も生きている限り己の意思にかかわらず新陳代謝をしています。ところが煩悩が膨れ上がると悩みや苦しみが多くなり、それにともないストレスが大きくなるから臓器の働きや、新陳代謝にも影響して、心身が病んで、病や老いが進むと死に至るのです。

 命の根本である遺伝子にはもとより煩悩などありません。けれども人間は進化とともに脳の働きが高度になり煩悩が増大してきた。執着や欲望は尽きないから、さまざまな悩み苦しみを自分自身でつくってしまう。それで三毒の心のはたらきをできるだけ抑えて、自然体に生きておれば日々楽しく生きられる。煩悩の炎が消えて悩み苦しみのない状態を、お釈迦様は涅槃寂静と言われました。一大事因縁とは生死そのものであり、生死即涅槃、涅槃即生死です。新型コロナウイルス感染防止の得策とは、心おだやかに日々を過ごすことでしょう。

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