第102話    2007年7月1日
 
                放下著 
ほうげじゃく           
 
  趙洲禅師(じょうしゅうぜんじ)に一人の僧が問うた
  「私はすべてを捨て去って、一物も持っていませんが、こういう心境をどう思うか」と、
  禅師は即座に 「放下著」 と答えた。
  そこで僧は再び問うた。 
  「私はすでに、すべて捨ててしまったのだから、もう捨てるものは何もありません」と、
  すると禅師は 「何も持っていないという、その意識をも放棄せよ」 と言った。「従容録」
                                             


現代人の悩みの多くはストレスが原因だと考えられています

 だれにでも悩みごとがあります、仕事上のこと、勉強や進路のこと、夫婦や親と子の間のこと、子育てのこと、家族のこと、男と女の間柄のこと、金銭的なことや経済的な生活不安、さらには病気、老いや老後のこと、等々、だれでも悩みを持っています。悩みごとのない人はいません。
 悩みごとは、他の人に話すことによって、少しは気持ちも楽になることもあります。相談にのってもらえる人がいないとか、他の人には理解できないであろうと思いこんでしまったりして、自分の心の内にとじこめてしまうと、かえって悩みが深くなるものです。

 悩みや苦しみごとがあっても、どんなことでも受けとめて、それを超えていくことができるという自信を持っている人でも、ちょっとしたつまずきが原因で、深刻な苦悩と不安をかかえて嘆くことがあるでしょう。体力も気力も人一倍あると思いこんでいる人でも、過労や心労が重なると、立ち上がれないほどの深い悩みの淵に転落してしまうこともあるでしょう。

 現代人の悩みの多くはストレスが原因だと考えられています。だれでも何らかの心身の不調を感じながらも、日々生活をしています。そして、親近者の死、退職、引っ越し、転勤、昇進、職務内容の変化、過酷な業務による過労、出産、育児などの環境の変化に直面すると、ストレスが誘因して、より深い悩みにはまってしまうことがあるのです。

 深刻な悩みがあっても、やがて解決するであろうと、達観できる人もあれば、自分の殻に押し込めて心配ごとを増幅してしまう人もあるでしょう。また積極的に他に救いを求めて苦悩の解決をはからうとする人など、さまざまです。
 「生きていくのがつらい日は、おまえと酒があればいい」とは歌の文句ですが、ついつい気持ちが沈んでどうしょうもない時に、深酒をしてしまうものです、でも、酒に逃れようとすると、アルコール依存症になってしまうから危険です。

最近、ご自分のこんな変化に気づいていませんか?

最近のご自分の変化に気づいていませんか?
 気分が落ち込みやすくなった、ものごとがなかなか決められない、眠れない、熟睡できない、夜中や早朝に目が覚める、朝になると気持ちが悪い、なんとなく身体がだるい、微熱が続く、肩こりや頭痛がとれない、腰が痛い、胃が痛い、食欲とくに朝食が食べられない、いつも不安を感じる、イライラする、物事に集中できない、やる気がでない、ためいきばかりつく、自分に自信が持てない、人と会ったり話したりしたくない、性欲がない。これらのことが最近いくつも重なって感じられることはありませんか。

午前中がとくにつらいという感じはありませんか?
 目覚ましよりも早く目が覚めてしまう、起床後に起き上がるのがつらい、身体がだるい、着替えるのもおっくうである、朝刊を見る気になれない、朝のテレビニュースが見られない、朝食が食べられない、遅刻ばかりしてしまう、午前中仕事のミスや能率が悪い、こういう事柄で思い当たることが多ければ、うつ病の前兆であるかもしれません。
 
ご自分の変化に気がついたら、医者に相談してみませんか?
 ストレスなどによって、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の働きが悪くなり、バランスが乱れると憂鬱な気分や無気力などのうつの症状があらわれるそうです。
 「うつ病」といっても、人によってさまざまですが、うつ病は治る病気です。初期治療が大切です。ご自分の変化に気がついたら、医者に相談してみましょう。

憂鬱感や無気力な状態が続いていませんか?
 無気力でやる気が起こらない、身体のどこかが悪いということもないのだけれど、そんな自分じゃダメだと思いながらも、どうしても活力がわいてこない。それで自分をせめるから気が疲れる、不安、悲しみ、むなしさ、憂鬱な気分、無気力感が増す。危険信号を自分の身体が発しているのに、人はそれに気づかないものです。体がサインを出したら医者に相談する勇気が必要です。そして病気と診断されたら、素直に受け入れ、治療に専念することです。

病気は生まれ変わるチャンス

 まわりからみると「なんでそんなことに」と、いうようなことにプレッシャーを感じることがありませんか。重圧に感じて、そこから逃げ出したいとか、すべてを投げ出したいと思うことは誰にでもあります。不安に対してあれこれ考えるのはごく自然なことです。不安を感じても、不安から逃げずにやさしく付き合えれば、やがて不安の度が下がり、自信や度胸もついてくるものです。時にはその不安から回避する勇気が必要なこともあります。不安をじっくり観察し、不安を楽しむことができれば、自身の成長にもつながっていくでしょう。

 誰でも不安を感じるのですから、不安の強い人は、他の人よりも少し強く感じ取ってしまう性分だというぐらいに考えておくといいのですが、ストレスが誘因して心身の不調をきたすと、さらに不安感が大きくなってしまうことがあります。 そして気持ちが落ち着かなくて、いつもいらいらしている、落ち着かせようと自分に言い聞かせてみるが、何をやってもそのことに集中できないで、いろんな思いが、つぎつぎと頭をよぎる、つい他に八つ当たりしてしまう、しまったと思いながらも、鬱憤をはらせない、こういうことは誰にでもあることです。
 
 こうした不安はその原因が消滅したり、不安に感じながらも自分が受け入れることによって、不安感もしだいに解消されていくものです。けれども強い不安感がいつまでも続く場合は何らかの病気であるかもしれないから 、医者に相談してみることが大切です。
 ストレスが関係している心身症で病んでいる人は多いです、めまい、動悸、手足のしびれ、吐き気、息苦しさ、憂鬱感、おっくうな気持ち、不安感がおさまらず、心が危ないと感じたらできるだけ早く医者に診てもらうことです。

 心療内科へ行き医師のカウンセリングを受けることも必要でしょう。ゆっくりゆっくりがいいでしょう、病気は生まれ変わるチャンスだと思えばいいのです。自分が病であることを自覚して、病気を受け入れる、治したいと考えること、治ると信じて医者の指示にしたがい治療に専念して、あせらないことです。
 家族も周りの人も、頑張ってね、早く治るといいね、しっかりしろ、男のくせに、いい年して、怠けるな、などという言葉かけは禁句です。

捨てるという意識までも捨ててしまえ

 もしお医者さまにかかって病気の治療をされているようであれば、治療に専念することです。苦しくてつらいから、死んでしまったら楽だろう、などと、生き死にを考えているのであれば、病気が治ってから考えればいいことでしょう。
 そして、ちょっと見方、考え方も変えてみませんか。太陽は一つだから、一方が照らされていれば一方は影になるのですが、人は明るいことのみを、あるいは暗い方のみにしか目を向けよとしないのです。一方を照らせば一方は暗しで表裏一体のものですから、喜びがあれば悲しみがある、苦があれば楽があるのです。同じことで、悩み苦しみもがあるから、喜びも楽しみもあるのです。

 この世の道理として、今、生きているからこそ人は悩み苦しむのです。自分で背負い込んでいる荷物は当たり前のことだからと思えば軽くもなる、嫌な苦痛と悩みの種だと思えば重くもなる。ちょっと荷を下ろして、しばし休息してもいい、誰かさんに少し助けてもらってもいい、重すぎれば小分けして担ぐのもよし、今でなくとも時期をみて担ぎなおしてもいいでしょう。とかく人はさまざまなことにこだわり、自分勝手な気まま根性があるから、自分で悩んだり苦しんだりしてしまうのです。

 人は虚栄心や面子など、つっぱらなくてもいいのに、つまらないことにこだわり、肩肘張って生きています。肩肘張らずに、背筋伸ばして姿勢正して、ゆっくりと吐く呼吸法でいれば、心おだやかに生きられる。欲張ってもきりがありません、ほどほどがいいでしょう、これを少欲知足といいます。そして快眠・快食・快便を心掛けていれば、心身健やかに日々生きることができるでしょう。
 今、生きているからこそ人は悩み苦しむのです。だから悩み苦しみのあることは幸せに生きているということです。悩み苦しみと上手につきあえれば、人は幸せに生きられるでしょう。

 修行僧が趙洲禅師に「私は何もかも捨てて手ぶらになりました、さらに何を捨てろというのですか」とたずねた、すると禅師は「何も持っていないという、その意識までも放棄せよ」と答えた。
 現代はストレス社会です、ストレスのために心身ともに病んでいる人が多いようです。いろいろな荷物を背負って日々生活しています、その荷物は歳をとるごとに多くなるものです。そして親近者の死、退職、引っ越し、転勤、昇進、出産などの環境の変化にともなうストレスが、心身の病を誘因するのです。
 肩書きや面子、自分中心の欲張根性などを捨ててしまえば背中に背負った荷物も軽くなるのですが、なかなかそうはいかないのが世の常です。捨てるという意識までも捨ててしまえと趙洲禅師は言う、何ごとにも執着心を捨ててこそ、本当の生き方が見えてくるようです。

心の悩み・人生相談

戻る