もの思いにふける秋
この時期、街路樹が色づき、山々の錦秋の美しさに見とれていると、さーっと吹きぬける風に、目の前の木々がはらはらと木の葉を散らせていく。しみじみとした感傷に思わず誘い込まれていく、そんな気持ちになったことはありませんか。また菊の馥郁とした香りによって、穏やかな気持ちになる。秋の風景はさまざまな心の動きのようです。
なにげないことですが、秋の日のこの時期に、もの思いにふけることがあるでしょう。それは過ぎし日のことであったり、ふと感じる自分の老いの寂しさであったりです。もの思いにふける秋は、未来への希望ということより、どちらかといえば、過去への回想が多いようです。秋になると、いつもこの時期に思い出すのがフランスの詩人、ヴェルレーヌの詩でしょうか。
秋の日の ビオロンの ためいきの
身にしみて ひたぶるに うら悲し
鐘の音に 胸ふたぎ
色かえて 涙ぐむ
過ぎし日の 思い出や
げに我は うらぶれて ここかしこ
さだめなく とび散らう 落ち葉かな
落ち葉かな
ヴェルレーヌ作 上田 敏 訳 |
小春日和の暖かさを感じながら、熱く燃えた夏の日のことや、遠く過ぎ去った、ずっと昔の青春時代をふと思う人もあるでしょう。また北風の冷たさに思わず襟をよせ、身を震わせてしまう、そんな秋の日もあります。そして木枯らしが吹き始めると、厳しいこの冬の先行きに思いをめぐらすのもこの時期です。季節の移ろいに我が人生を重ね合わせて、物思いにふけるのも、たまにはいいのかもしれません。
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