涙を流して泣けるから・・・すくわれる
人は、悲しいときも、嬉しいときも、感情的な原因で涙を流します。涙を流す動物は、他にもいますが、こうした感情的涙は、人間特有の現象だと言われています。私たちは、どういう時に、そして何のために涙を流し、泣くのでしょうか。
涙とは目の涙腺から出る液ですが、目から涙があふれ出ていない時でも、涙は絶えず眼球面を流れて、目の表面に潤いを与え、角膜に酸素や栄養を供給し、目が細菌などに感染することを防いでいます。玉ねぎを切ったときや目にゴミが入ったときにも涙は出ます。そのときの涙の成分と、感情の高まりから泣くときに流れる涙の成分は同じでも、泣くときに出る涙のほうが、玉ねぎを切ったときに出る涙よりも成分が濃いということです。
涙には「癒し効果」があることがわかってきました。ストレスとの関係が深い自律神経には、緊張や興奮を促す交感神経と、リラックスや安静を促す副交感神経とがありますが、泣いて涙が出ることによって、交感神経が優位な状態から、副交感神経が優位な状態に切り替わるそうです。涙を流して泣くことで、ストレス状態が解消され、リラックスした状態になります。逆に、涙をこらえるのは緊張状態を長引かせ、ストレスをためることになるから、健康によくない。だから、泣きたいときは、いっぱい涙を流して泣くことです。
感情的な涙の原因の内訳は、女性の場合、悲しみが5割、喜びが2割、怒りが1割で、同情・心配・恐怖がこれに続きます。また、女性の85%、男性の73%が、泣いた後、気分が良くなると答えています。泣いた後には、脳内ホルモンの一つで「エンドルフィン」が増加することから、泣くとすっきりします。どうやら涙に精神的なストレスを解消する働きがあるようで、思いっきり泣いたあと、気分がすっきりした経験をもつ人は多いようです。
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毒物をはき出す口の動きが「笑い」に進化した
笑いは本能で、人は笑います。生後2ヶ月で笑いを発する、言葉をしゃべれるようになる以前に、赤ん坊は笑顔をつくることができる。笑いには「あっはっはっはっ」と声を出す笑いと、にっこり微笑むスマイルとの違いがあるようですが、一体なぜ、何のために私たちは笑うのでしょうか。
すごく面白い場面に遭遇して思わずゲロゲロ笑ってしまう場合の笑いは、外部からの刺激によって笑いが誘発され、自然に笑ってしまい、とても愉快な気分になります。
また、誰かにしゃべりかけるとき、何気なく笑顔をふりまきながら会話しています。気まずい場面になれば苦笑したりします。この種のフフフ笑いは、かならずしも外部からの刺激がなくても自発的に作ることができ、笑いを自分の意志でコントロールできます。
ゲロゲロ笑いとフフフ笑いでは、それぞれ関わっている脳の経路が異なるそうです。ゲロゲロ笑いは、副交感神経が働き、ポジティブ感情を上昇させ、ストレスに対するネガティブ感情をダウンさせてくれるから、身体がリラックスします。ところが随意のフフフ笑いは、交感神経が働き、身体は緊張する。笑う演技をしながらも、身体の方は攻撃態勢に入っているから、疲れる笑いです。
ヒトの場合、二足歩行が可能になることによって、呼吸と発声の分離が可能になり、霊長類的なギーギーという笑い声ではなくハッハッハッという笑い声に進化した。二足歩行が可能になると、ヒトが行動できる範囲が拡大したので、未知なる環境でいろいろな出来事に遭遇してストレスを抱え込んでも、笑いによって、ポジティブに生きていくことができるようになった。また、知能が発達するにつれて、笑顔を振りまきながら会話したり、気まずい場面に遭遇すれば、苦笑したり、随意の笑い表現をするようになりました。
人は笑うことで、苦しいときも、つらく悲しいときも、前向きに生きていける。人間社会では、笑い声によって互いの安全を確認でき、笑うことによって、お互いを傷つけることなく行動することができる。苦難を乗り越えていく上で、笑いが互いを励ます力にもなります。
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泣き笑いが人生です
南米チリで起きた鉱山の落盤事故では、地下700メートルに閉じ込められた33人の作業員が、70日ぶりに全員無事に救出されました。この落盤事故はチリ北部のコビアポ近郊の鉱山で8月5日に起きました。安否を気遣う家族はだれもが絶望して、悲しみの涙を流しました。ところが17日後に地下700メートルからドリルの先に「全員生きている」と書かれたメモがくくりつけられているのが見つかり、全員の無事が確認されました。
家族は確かに生きているという情報に喜び、うれし涙を流して、一日も早い生還を願いました。世界中のマスコミが注目する中、チリ政府あげて、昼夜を通しての救出活動が続けられました。地下では作業員たちも希望を失わず、互いに励まし合って、涙と笑いの耐久戦がつづきました。そして事故以来70日ぶりに、生存が絶望視された事故でしたが、作業員全員が奇跡的な生還を果たしたのです。
地下700メートルで作業員達は、高温多湿、暗く息苦しい極限の状況を耐え忍ばねばならなかった。泣きそうになる心の内をお互いにかばい合い、励まし合い、笑いを絶やさず、生還できることに望みをつなぎました。一人では耐えきれないことも、仲間があれば乗り越えられる。一人でいるときよりも、誰かと一緒にいるときの方が30倍も笑いやすいという。
笑うことで人間関係が円滑になり、身体にとっても、笑いはとても有益です。劣悪な環境の中でも作業員達は体調を崩すことなく生き延びられたのは、笑いがあったからです。
事故から生還するまでの70日間は、泣き、そして笑う日々でした。閉じ込められた作業員もそしてその家族も、無事に救出されることのみを願って、さまざまなことに耐え忍んできました。願がかなって無事生還、心配していた家族と再会できた時、それまでの苦労と心配から解放されて、うれし涙を流しました。お互いに抱きあい、命あるを喜び、積もり積もった苦労と心配を、笑顔と涙で、いっきょに吐き出し、洗い流しました。
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坐して時に、落ち葉を聞く、静に住するは、これ出家
従来、思量を断ちたれども、覚えず、涙、巾をうるおす
涙には「癒し効果」があるので、悲しくなれば泣けばいい、とりわけ大切な人との死別の悲しみには、いっぱい涙して泣くことです。嘆き悲しみ、涙も枯れ果てるほどに泣くと、悲嘆の気持ちも緩和されるでしょう。そして泣くことが供養であり、涙が亡き人を成仏させるから、49日間のみならず、100日目の卒哭忌まで、いっぱい泣いて、たくさん涙することです。
泣くときに出る涙は、うつ病をも回避させるという。涙は身体にとって余計なものを排出し、正常に整える働きがあるから、つらく悲しいときには泣けばいい。
笑うことで免疫力が高まるそうです。免疫力とは細菌やウイルスが体内に入ってきたときに、それを異物として排除しようとする仕組みのことです。このとき大事な働きをするのが白血球ですが、
その中でウイルスなどの異物を食べてしまう「マクロファージ」と、ウイルスなどに感染した細胞を殺す「ナチュラルキラー細胞」などの働きが、笑った後には活性化しているそうです。笑うことで活力が生まれるから、日常生活で笑いを欠かさないことです。
良寛さんは一人静寂の中に坐っておられた、ふと、かさこそと散る落ち葉の音が聞こえた。こんなことに心を動かされてしまう自分ではないのであるが、深みゆく秋のもののあわれに、つい老いの涙をもよおして、手ぬぐいで目をぬぐわれた。
生死の流れに身をまかせ、自然体に生きることを喜びとされ、いつも満面に笑みをうかべておられた良寛さんであっても、時に無常の風を感じて涙されたようです。
涙を流すことで、心の中に生じてくるごみを洗い流します。健康にいい涙なら流すべきです、泣きたくなったときは、我慢しないで思いっきり泣くことです。また、毒物をはき出す口の動きが笑いに進化したそうですから、つらく悲しいときこそ大いに笑うといい。
過剰なストレスが免疫力を低下させることはよく知られていますが、泣いたり笑ったりすることでストレスを解消し、免疫力が高まります。「心のごみを捨てる」という、泣くことと笑うことは共通する浄化作用です。
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